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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

「マア、あんなもの、いつの間に、誰が持込んだのでしょう」

品子さんは、いぶかしさの余り、障子を開けて、二足三足、その床の間の方へ近づいて行った。

近づいて行ったかと思うと、彼女は電気にでも打たれたように、ハッと立ちすくんでしまった。飛出すばかり見開かれた両眼が、釘づけになったように、その物体に注がれたまま動かなかった。

突如として、絹を裂くような悲鳴が、彼女の口をほとばしった。そして、身体は水母のように力なく、クナクナとくずおれて行った。

悪夢とばかり極めていたものが、まざまざとした現実となって、彼女の前に現われたのだ。そこの床の間の前には、あの人間程の真赤な大蠍が、品子さんを睨みつけるようにして、今にも飛びかからん姿勢で蹲まっていたのだ。

悲鳴を聞きつけて真先に駈けつけたのは、殿村夫人であった。

「みなさん、お嬢さまが大変です。早くいらしって下さい」

夫人の金切声が、家中の人々を大広間に呼び集めた。折よく居合せた父栄之丞氏を初め、母夫人、書生達から女中までが、先を争うようにして、集まって来た。

人々はそこに、世にも異様なすさまじい光景を目撃しなければならなかった。