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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

怪老人とトランク

怪老人とトランク

慌てるだけ慌て、騒ぐだけ騒いだあとの桜井邸は、その午後になって、俄かにシーンと鎮まり返ってしまった。怒鳴ったとて仕方がない。泣いたとて仕方がない。一番いいのは、一同が冷静になって、ある限りの智慧を絞って、善後の処置を考究する事だ。そこへ気のついた桜井栄之丞氏は、関係者一同を階下の洋風客間に集めて、異様な協議会を開いたのだ。

閉め切った西洋館の電気ストウヴを囲んで、桜井氏夫妻や書生達、その頃になってやっと気力を恢復した家庭教師の殿村夫人、桜井家出入りの重だった人々などが、令嬢取戻しの手段方法について、議論を闘わしていた。

或者は、身代金によって品子さんを買戻すことを提案した。或者は、犯人捜索に多額の懸賞金をつけることを発表せよと説いた。ある者は警察の無能を罵しり、東京中の私立探偵を総動員せよと論じた。

そうしている所へ、数日前同じ妖虫殺人団の為に、無残の最期をとげた珠子の父相川操一氏と、彼女の兄守青年とが連立ってやって来た。

前に記した通り、相川守青年は、彼の愛人である桜井品子さんの危難を救おうとして、却って賊の術中に陥り、麻酔薬に身の自由を奪われた上、恐ろしい赤蠍の衣裳に包まれて、早朝のオフィス街に捨てられていたのであるが、巡回警官の急報によって駈けつけた父操一氏に連れられて自宅に帰り