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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
あの爺さんは、一体ここへ何をしに来たんだ。お悔みでも云いに来たんですか」
絶望の極、桜井氏の八ツ当りであった。
「僕にもそれがよく分らないのです。なにしろ有名な奇人ですから……」
守さえも、老探偵を弁護する勇気はないように見えた。
丁度その時、入口のドアが開いて、印半纒の三笠探偵がヒョッコリ入って来た。見ると、パンツの膝の所が、泥にまみれた様に汚れている。右手の甲に掻き傷が出来て、ひどく血が流れている。
「あれは品子さんの飼猫ですかい。ひどくやられましたわい。捕えようとすると、いきなりここを引掻きおった。じゃが、まんまと虜にしてしまいましたがね。ハハハ……」
愈々気違いの沙汰である。この危急の場合、この悲歎のさ中に、老探偵は猫をからかって遊んでいたのであろうか。
「三笠さん、マア御掛けなさい。一つあなたの御意見を伺いたいものですね。猫のことではなく、娘を救う手段についてですよ」
桜井氏が激怒を圧えて、皮肉たっぷりに云った。
「承われば、あなた様は、白髪首をかけても、賊を捕えて見せるとおっしゃいましたそうですね。その御約束は一体どうなったのでございましょうか」