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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

殿村夫人も、堪えかねて、老人を睨みつけながら、つめ寄った。

白髪白髯の土木請負師は、これらの攻撃に答えようともせず、そこに空いていた一脚の椅子に腰をおろしたが、ふと妙な顔をして、身体をモジモジさせながら、お尻の下から、一枚の紙片を引っぱり出した。

「ホホウ、何だか書いてある。又赤蠍奴の下手な手品が始まったのかな。イヤ、そうでもなさそうじゃ。ごらんなさい。こんなことが書いてある」

人々は又しても出現した奇怪の紙片を無視する訳には行かなかった。十いくつの顔が、テーブルの上に集まって、そこに投出された紙片の文字を読んだ。

午後二時三十分、憎むべき賊は逮捕されるであろう。そして、桜井品子は無事救い出されるであろう。三笠龍介

何と、その紙切れには、当の老探偵三笠龍介の署名があったではないか。

「冗談をしている場合ではない。三笠さん、少しお慎み下さらんと困る」

相川氏が苦り切って、頓狂な老人を叱りつけた。

「イヤ、御免御免、つい賊の真似をして、手品を使って見たまでじゃ。併し、そこに書いて置いた事は間違いありません。そういうことになるのです」

老人は落ちつき払っている。