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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

老探偵の勝利

ウハハハハハハ、こいつはおかしい。本当にそう信じているのかね」

老人が頓狂な声で笑ったので、当の殿村夫人は勿論、一座の人々はハッとした様に、その顔を眺めた。

「ではお前に見せるものがある」

探偵は、何か訳の分らぬ事を云いながら、次の間との間の襖に近づき、それをサッと開いた。

「どうじゃ、殿村、これでもわしは赤蠍に負けたかね。白髪首を懸けても助けるといった約束を守らなんだかね」

老探偵の勝利

実に意外なことが起ったのだ。開かれた襖の向うには、天井裏で殺された筈の桜井品子さんが、いくらか蒼ざめてはいたけれど、それでもニッコリ笑いながら立っていたではないか。

一目それを見ると、流石の妖魔殿村夫人も、アッとのけぞらんばかりに驚いて、物を云う力もなく、ヘタヘタと坐り込んでしまった。

驚いたのは殿村夫人ばかりではない。一座の人々はアッと驚喜の叫びを立てないではいられなかった。中にも父桜井氏は、夢中に駈け出していた。駈け出して品子さんに縋りついた。イヤ縋りつかんばかりにしてその手を握った。品子さんが堪え堪えていた感動を一時に現わして、父親に手を取られたままそこに泣き伏したのも無理ではなかった。