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ようちゅう
妖虫
江戸川 乱歩
「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页
毒虫の餌食
毒虫の餌食
相川守は一応近くの派出所まで同行を命じられ、この重大事件を予め知っていながら其筋に届け出でなかった不都合を散々に責められたが、彼が知名の実業家の息子であったこと、事件が余りに異様でまさか本当とは思えなかった事情などが段々分って来たので、いずれ参考人として呼出しを受けるであろうが、今日は一先ずこれでと、帰宅を許されたのは、もう午前二時頃であった。
彼は余り尊敬出来ない様な刑事達から、乱暴な言葉で、散々に油をしぼられたことを、さして悔いてはいなかった。それよりも、今晩の恐ろしい経験で、一つ場数を踏んだという、猟奇者の喜びの方が大きかった。兎も角も、彼は大犯罪事件の渦中に身を投じたのだ。それが、彼の探偵本能に一種異様の満足を与えた。
彼は自働電話を見つけて、じき帰るから心配しない様にと、家の者に伝えて置いて、寝静まった大通りの夜霧の中を歩いて行った。
霧を破って、時々空車のヘッド・ライトが眼を射たけれど、直ぐ呼びとめる気にはならなかった。彼は昂奮していたのだ。街燈とアスファルトばかりの空漠たる夜の大道が、彼を異様にひきつけたのだ。
彼は谷中の空家での激情を反芻しながら、足の向くままに、霧の中を靴音高く歩いて行った。