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ようちゅう

妖虫

江戸川 乱歩

「キング」大日本雄弁会講談社、1933(昭和8)年12月~1934(昭和9)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 120,290 字 · 239 页

青空文庫

守は不思議な昏迷に陥って、死にもの狂いの身構えをしたが、相手は早くもそれと気づいたのか、再び懐中電燈をこちらへさし向けた。

「イヤ、感違いをしてはいけない。君をひどい目に合わせた奴は、まだこの上の部屋にいる。わしのこの髯はつけ髯じゃない。わしが君の訪ねてくれた三笠だよ」

穴蔵の名探偵! これはまあ何とした事だ。

「ハハハ……、わしも君と同じ目に合ったのだよ。わしの作った陥穽へわし自身がつき落されたのだよ」

「本当ですか。先生まで、あいつの為に、……」

守はあっけに取られてしまった。あこがれの名探偵の、このみじめな姿に、悲惨をさえ感じた。だが、罠にかかった老探偵三笠龍介氏は、不思議なことに、少しもうろたえていなかった。ジメジメした穴蔵の底が、まるで居間ででもある様に、異様に落ちつき払っていた。

「わしが外出から帰ると、助手のトムが、相川さんから電話があって、十時頃に息子さんの守という人が来られると云うので、例の妖虫事件だなと、わしは君に会うのを楽しみに思っていたのです。そして、君を待受ける為に書斎へ入って見ると、部屋の隅に、もう一人のわしが、つまりわしに変装した奴が隠れていて、不意に陥穽の釦を押して、このわしを罠にかけたという次第じゃ。