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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

「どうも、お邪魔さん」

と、お辞儀して、外へ飛び出して行った。

「お茶代は置いて行ったのかい。変なやつだね」

お甲は、小女を振向いて、

「床几を、畳んでおしまい」

と、いいつけた。

そして彼女も、藤次も、葭簀を巻いたり、店の物を片づけ始めた。

そこへ、のっそりと、犢のような黒犬がはいって来た。梅軒の姿は、その後からであった。

「お、お越しで」

「どうぞ、奥へ」

梅軒は黙って、草履を脱ぐ。

黒犬は、そこらに落ちている喰い物を、漁り歩くのに忙しない。

荒壁の破れ廂だが、板縁を架けて、離れている。そこの一間に燈火がつく。梅軒は坐るとすぐ、

「……先ほど、神楽堂の前で、武蔵が連れの子供に洩らした言葉に依れば、明日は、奥の院へ登るつもりらしい。それから先に、慥かめておこうと、そっと観音院へ寄って探って来たので遅くなった」

と、いった。

「じゃあ、武蔵はあしたの朝、奥の院へ……」

とお甲も藤次も息をのんで、廂ごしに、大岳の黒い影を、星空に見た。

尋常一様なことで、武蔵を打てないことは、藤次以上、梅軒は弁えていた。

宝蔵番のうちには、彼のほかに屈強な番僧が二人いる。同じく、吉岡の残党で、この神領に小さな道場を建て、部落の若い者に稽古などをつけている男もある。