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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

天音

一

「おめでとうござりました。……はや明日からでも、御出仕でござりますか」

武蔵が坐ると、藺席のすそに彼も坐って手をつかえながら、欣びを述べるつもりで直ぐいった。

武蔵は笑って、

「いや、沙汰止みになった」

「えっ……?」

「よろこべ、権之助。今日になって、遽かにお取消しという沙汰」

「はて。腑に落ちぬことで。一体どういうわけでございましょう」

「問うに及ばん。理由など糺して何になろう。むしろ天意に謝していい」

「でも」

「其方まで、わしの栄達が、江戸城の門にばかりあると思うか」

「…………」

「――とはいえ、自分も一時は野心を抱いた。しかしわしの野望は、地位や禄ではない。烏滸がましいが、剣の心をもって、政道はならぬものか、剣の悟りを以て、安民の策は立たぬものか。――剣と人倫、剣と仏道、剣と芸術――あらゆるものを、一道と観じ来れば――剣の真髄は、政治の精神にも合致する。……それを信じた。それをやってみたかったゆえに、幕士となってやろうと思った」

「何者かの、讒訴があったのか、残念でござりまする」

「まだいうか。穿きちがえてくれるな。一時は、そんな考えも抱いたことは確かだが、その後になって――殊に今日は、豁然と、教えられた。