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みやもとむさし
宮本武蔵(七)
吉川 英治
吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页
「……く。く。……くっ」
猿ぐつわの口のなかで、伊織は声をもらしていた。そして身をもがき、首をふり、やがては、ぽろぽろ泣いている。
その側で、荷を積んだ馬が、とうとうと尿をしていた。尿の泡が、伊織のほうにながれて来る。
刀も差さない、生意気もいわないから、もう縛めだけ解いてもらいたい、と伊織は心から思ったが、その訴えも叫べない。
――すると。
もう真夏に近い炎天を、市女笠に陽を除けながら、細竹を杖に、麻の旅衣を裾短にくくりあげて――ふと、荷馬の向う側を通り抜けた女性がある。
(……あっ。おやっ?)
伊織の眼は飛びつきそうに、その人の白い横顔へ耀いた。
どきん! と胸が鳴って、体じゅうがくわっと熱くなって、気もみだれてしまいかけた刹那に、その人の白い横顔は、わき目もせず、店の前を過ぎて、後ろ姿になってしまった。
「ね、ねえ様だっ。――姉様のお通さんだっ……」
首を伸ばして、伊織は、絶叫した。いや、彼だけは、絶叫をもって、その人の背後へ呼びかけたつもりであろうが、声は誰にも、聞えてはいなかった。
七
泣きぬいた後は、声も出ない。ただ肩で嗚咽しているきりだった。