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みやもとむさし

宮本武蔵(七)

吉川 英治

吉川英治『宮本武蔵(七)』。同一底本的分册已合并为一书。收入:宮本武蔵、宮本武蔵。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 350,912 字 · 702 页

青空文庫

三

三

一方――

同じ準備は、対岸の赤間ヶ関にある武蔵のほうにも、当然のこと、はや迫っていたわけである。

早朝。

長岡家の使いとして、縫殿介と伊織のふたりが、武蔵の返書を携えて、立帰って行ったあと。――彼の身を寄せている廻船問屋の主、小林太郎左衛門は、浜納屋の露地づたいに、店頭へ姿を見せ、

「佐助。佐助はいないか」

と、探していた。

佐助というのは、大勢の雇人の中でも、よく気のつく若い者で、住居の方でも重宝に使い、暇があると店のほうを手伝っていた。

「おはようございます」

主人の姿を見て帳場から降りて来た番頭は、まず朝の挨拶をして、

「佐助をお呼びで。――はい、はい、今しがたまで、そこらにおりましたが」

と、他の若い者へ向い、

「佐助を探しておいで、佐助を――。大旦那がお召しだ。いそいで」

と、いいつけた。

それから番頭は何か、店の事務について、荷物の回漕やら船配りなどについて、さっそく、主人に報告的なおしゃべりを始めたが、太郎左衛門は、

「後で。後で」

耳たぶの蚊を払うように顔を振り――それとはまったく関りのないことを訊ね出した。

「誰か、店のほうへ、武蔵様を訪ねて見えた者があるかね」