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さこんのいかり
左近の怒り
「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页
「海の男はシケを怖れないが、オカが怖ろしいのだよ。甚だオカは物騒だ。キミたちの生一本なのも尊いが、怖ろしいものを怖れることも大切だよ。社長がボクに用がないというなら、ボクはよろこんで東京を逃げだしたいや」
左近はバカのようにカラカラ笑った。そしてもうキミたちに用がないと云わぬばかりに大手をひろげてアクビをした。葉子とタコスケは無念の形相で彼を睨みつけていたが、葉子がタコスケをうながして、消えるように立ち去った。
これでよいと左近は思ったのである。葉子の身に何かが起っては気の毒だ。吉野大竜にしても由々しい危険が身に及びそうな気配を見てとれば手をひきたくなるに相違ない。自分の離京が人々の役に立つなら、そうするに越したことはない。この出版に執着しなければならない理由は左近にはなかったのである。葉子のために手伝う気持になったようなものであるが、そして葉子が次第にこの出版に乗気になりつつあるのは確かであるが、それだけに葉子の身に危険の迫る率も増大しているようなもので、今となっては身をひくのが葉子のためだと左近は思った。葉子のこの出版への執着は乙女心の感傷と行きがかりにすぎない。