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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

その名は玉子

「あの車、私たちの味方なのよ」

「そうかねえ。もっとも、こちとらは何が何やら話の筋道がまだ飲みこめねえ最中なんだがね。タコスケの奴、せきたてるばッかりで、何が何やら分りゃしねえや」

「タコスケさん、どうしたの?」

「銀座にはりこんでる模様ですよ。奴は生れつきタンテイのマネが好きなんだ。むやみに張りきって仕様がないよ。ガソリン代の貸しだって去年から六千円もあるんだぜ」

「女の人のお顔みた?」

「チラッとね」

「どこかで見たような気がしない? 映画女優かなんかに」

「そうだねえ。なんとなく、そんな顔だね」

「タコスケさん、どこで待ってるッて云ったんですか」

「大竜出版で落ち合う約束でね。落ち合えなくとも黒板でレンラクの約束さ。奴はそのへんのこと、キチンキチンしてやがるよ。ああ張りきられちゃアかなわねえや」

大竜出版へ戻ると、ちょうど左近とタコスケと洋次郎がひとかたまりに駈けこんできたところであった。

その名は玉子

各人各様の情報をヒレキしあってみると、事態は危険であり、また甚だしく奇怪の様子であった。さすがにそれを的確に見てとっているのはフハイダラクしているだけに洋次郎であった。