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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

玉子の告白

葉子さんのために去り、そして悔いはありません。波の呼ぶ声がきこえています。ボクが本当に恋することができるのは、それだけということが分っているからです。誰からも、また何物からも、最後にはボクは必ず海へ戻らなければならないでしょう。完全にボクの物だと云いきれるのは海だけですよ」

左近はその海にささげる如く、杯を眼下によせて微笑した。

玉子の告白

葉子を緑の自動車で誘いだしたのは人々の推量通り玉子であった。

「アナタの兄さんに手をまわして夏川さんを東京から立ち去るようにと企んでるのは私なのです。そのワケをお話してアナタにも応援していただきたいと思うのよ。ワケをきいて下さる」

玉子は葉子のデスクの前に立って、こう云ったのである。葉子はうなずいた。

「うれしいわ。じゃ、ちょッとの時間、私につきあって」

葉子は当然の返事をしようとした。それは彼女がいま店をはなれると無人になるからタコスケの戻るまで待ってくれという返事だ。玉子を疑る疑らないに拘らず、店には誰もいなくなるから当然そう答える必要があるのだ。

しかし葉子はすばやく決心した。もしもそう答えれば玉子はあきらめて立ち去るか、タコスケの戻るまで待つより仕方がないわけだが、あきらめて立ち去られるのが残念だ。