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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

変な命令

「どなたからの御伝言?」

オバサンはそれに答えなかった。葉子の手をとり、玉子に挨拶のヒマも与えず連れだした。玉子はあきらめきったように目をとじていた。

葉子をのせた緑の自動車は走りはじめた。

変な命令

洋次郎はよばれてマスターの部屋へ行った。いつも愛想のよい曾我だが、この日はことのほかニコヤカに彼を迎えいれて、

「苦は楽のタネ。ねえ、キミ。人の苦労に報いはあるものだ。キミも今回は思いがけないことで辛い思いをしたろうが、どうやら良き報いが訪れたらしいぜ」

「妹が無事戻ればほかに文句はありませんよ」

「そのことは云うまでもなしさ。あと三十分ぐらいで妹さんは勤め先へ戻るそうだ。まずは乾杯」

曾我は馴れた手つきでハイボールを二つ作って乾杯して、

「お互いに今回は苦労したな。ボクだって何が何やら分らないが、さる人物とキミとの中間に立たされて辛い思いに変りはなかったよ。ところで例の夏川左近だが、その方は確実だろうな」

「無論ですよ。葉子が戻れば奴は海へ戻りますよ。奴の約束はヤクザの仁義以上に信用できますから」

「それはたのもしいな。ところで夏川左近が海へ戻ったあとで、キミにしてもらいたい仕事が一ツあるのだが」