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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

ま、さっそくキミの意見を先方へレンラクするから、店で働いて返事を待っていたまえ」

洋次郎が店へ戻ると、それを待ちかまえて彼の女房が駈けよった。この店では礼子という女給だ。

「大変なのよ。今朝私が訪ねて行った印刷屋のオヤジが来てるのよ。まさか嗅ぎつけてきたわけじゃアないでしょうね」

「嗅ぎつけるはずはないが、しかし妙な暗合だな。キミは顔を見られなかったろうな」

「それは大丈夫。それに、ちょッと見たぐらいじゃ気がつかないわよ。今朝は着物だし髪もモジャ/\でお化粧もしていなかったんだもの」

「キミはその席へ近づかないようにしたまえ」

洋次郎が氏家の席へ近づいて様子を見ると、二人の身ナリのよからぬ人物がビールをのんでいる。一人はジャンパーだ。云わずと知れた左近である。謎がとけたから彼もホッと安心して、その席へ立ちより、

「こまるじゃないか。夏川君。キミは敵の顔を知らないが、敵はキミを知ってるばかりじゃなく、この店の常連の中にその敵がたしかにいるに相違ないのだ。第一、ボクはいま葉子のことでマスターに談判して敵にレンラクをたのんだところだよ。東京を立ち去るはずのキミが敵の本拠かも知れない場所へノコノコ現れちゃアこまるじゃないか」