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さこんのいかり

左近の怒り

坂口 安吾

「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页

青空文庫

「それは約束がちがいますよ。ボクの仕事は夏川左近を追ッぱらうので終りのはずだ。どこのオエラ方の命令か知りませんが、三下だって怒る時はありますぜ」

「まアま。カンちがいしちゃいけないな。苦は楽のタネ。よき報いの訪れとは、このことだよ。この仕事には莫大の報いがある。おまけに単なる商談だよ。夏川左近を追ッぱらったあとでだね、大竜出版と氏家印刷の払いをすましてバクダン・メモの出版を中止させるのがキミの仕事だ。ネ。単なる商談さ。値切ったぶんはキミのモウケになるぜ」

「だってボクが依頼した出版でもないのに、そんなことできますか」

「そこは適当にやりたまえ。住田嘉久馬氏にたのまれたと云うんだね」

「委任状は?」

「そういうものが必要かなア。ねえ、キミ。商談ですよ。しかも、現金の支払いですよ。先方は現ナマをちょうだいするのだ。そのほかに、何がいりますか」

「それが良き報いですかね」

「当り前さ。キミの腕次第で、モウケはお気に召すままだ。キミの労苦をねぎらうためにキミに与えられた仕事だぜ。失礼な申し様だが、本来ならこれは紳士の仕事だね。軍人で申せば大佐以上、あるいは、代議士、社長。