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さこんのいかり
左近の怒り
「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页
「キミならぶん殴られても平気らしいから引きうけるのさ。住田嘉久馬が金を払わなかったら、キミとオレで出版して密輸船へずらかるんだな」
「なるほど」
なんとなく面白そうな話になった。さっそく組みにかかった。印刷屋の職工は玄人よりも校正がうまいぐらいで、いろいろ手伝ってくれるから、無経験の左近も難儀しない。漁師は新聞なぞは読まないものだ。ラジオは漁船の必要品だが、ニュースに聞き耳をたてることもメッタにないから、バクダン・メモの内容はことごとく左近の新知識である。オカにはいろいろのことがあるものだ。これを娑婆というものであろうか。吉野大竜が左近の力作「密輸船」におどろかないのは無理がない。
初校を了って住田嘉久馬に再校を乞う段取りとなった。ぶん殴られる段取りも近づいたような形勢であるが、住田嘉久馬という怪人物に会えると思うと人食い鮫や大蛸に対面するよりも興味がある。左近はゲラの包みをポケットにねじこんで、勇みたって広大な住田邸の正面玄関を訪れた。アンコーのような怪書生でも現れてくるかと思うと、ショボ/\した老婆が現れて、
「裏から来るんだよ。ほんとに、まア、礼儀を知らない。