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さこんのいかり
左近の怒り
「講談倶楽部 第六巻第九号~第一一号」1954(昭和29)年7月1日~9月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,454 字 · 95 页
用がすんだら、さっさとおかえり」
「待ってますから、至急やっていただいて下さい」
「校正なんぞいつごらんになるか分るかね。電話をかけて知らせるから取りにおいで。裏口から来るんだよ」
住田嘉久馬に会うどころの話じゃない。娑婆はことごとく勝手がちがう。再校がでるまでは用のない身体になったから、左近は大竜出版へひきあげることになり、印刷所で夕食を御馳走になって帰途についた。灯りの少い夜道を駅に向って歩いていると、後から若い女が追ってきて、いきなり彼の腕をとり、
「お久しぶりね、吉田さん」
「人ちがいですよ」
「黙って! お友だちのフリをして。おねがい」
「ボクは金を持たないよ」
「ね。おねがいですから、お友だちのフリをして。私、追われてるんです」
「キミはカンちがいしてるんだ。追われてるとすればボクだぜ。さては」
「ちがうッたら。私が追われてるのよ。ワケがあるのよ。ワケはあとでお話しするわ。おねがいだから、お友だちのフリをして。私のウチまで送ってちょうだい」
わけのわからぬことになった。ボスのコブンがぶん殴りにくるのに、こんな手のこんだことをするはずがない。してみると、この女にはたしかに左近に無関係の、深いワケがあるに相違ないが、人に追われるについては左近にも心当りが大有りだから、どうもまぎらわしくていけない。