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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「君はずいぶん艶福家だね」

大矢主任は笑いながら定夫に話しかけた。

「いったい、いい人は何人ぐらい、あるのかね」

定夫は呆気にとられた顔をした。

「バカにしなさんな。ボクサーというものは、かりにも、ぶんなぐりッこの商売だぜ。それは人気商売だから女のファンは腐るほどいらアな。しかし、女の子とイチャつきながら、タイトルはとれないぜ。まア、ちょッとトレーニングを見物することさ」

「それにしては、すばやいところ女中に手をつけたもんじゃないか」

「それが、どうしたというんだい」

定夫は真剣に怒った。

「人が後悔していることを、変に言いたてるもんじゃないぜ」

「そうかい。後悔しているとは知らなかったよ。やっぱり良心に咎めたかね」

「バカな。小便くさい小娘なんかを相手にするんじゃなかったということなんだ。お前さんたちには分るまいが、オレはボクシングに精魂かたむけているんだぜ。女というものは性慾を調節してコンジションをととのえる道具にすぎんじゃないか」

「なるほど」

「道具がニンシンしちゃアかなわないよ。こいつは、オレのミスさ」

「十八日の夜おそくアイビキした女も道具かい」

「なんだって?」