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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

第十一章 木の如きものの

「ところで、三村。今夜はひとつ、昭和十七年一月事件の調書をしらべてみたいのだが、君はこれを調べはじめていたそうだな」

「ハア。しらべはじめていました」

「その調書を私に借してくれ」

「さっそく届けます」

「では巨勢さん。矢代さん。今夜は私の家へ泊って下さい。一しょに、昔の書類をしらべて、研究してみようではありませんか」

「それは願ってもないことです」

と、私たちは大いによろこんで、捜査主任の招待に応じた。

第十一章 木の如きものの

昭和十七年の調書を読んで、私はいくたび大きな息をついたか知れない。あまりにも大きな謎が暗示されているからだ。しかし当時に於ては、いかなる名探偵もこの謎には気付かなかったであろう。昭和二十二年九月十八日の事件が起って、はじめて重大な謎を暗示していることが分るのである。

大矢捜査主任の訊問に答えて、滝沢は、自殺と云ったのは安彦だったと云ったが、まさしく安彦は調書に於ても自殺かも知れないと述べているのである。そこを要約してみると、ザッと次の通りである。

「君は他殺ではないと云うのだね」

「いゝえ。自殺かも知れない、と云う意味ですよ」

「なぜ自殺かも知れないのです」