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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

第九章 美津子の第一回目の訊問

ちょッと振り向いて見ましたが、なんにも見えませんでした」

「それは何時ごろだね」

「夜釣りの漁師が時計をぶらさげてりゃ、日本も一等国でしょうがネエ。まア、一時か二時ごろじゃアありませんでしたか」

「そっちの方角にエンジンの音をきかなかったか」

「それはきいたようですね。何度もききましたよ。あのへんは漁船の通るところですから、別に気にとめてもいませんでしたがね」

「ほかに物音をきかなかったか」

「毎晩きく音のほかには、特別のものをききませんでしたな」

「毎晩きく音とは、どんな音だな」

「まず夜汽車の音。それから大謀のホラ、お寺の鐘。海じゃア、ほかに珍しい音もきかれませんや。時々、海岸の崖を進駐軍の自動車の通るのが見えたり、きこえたりするぐらいかね」

「今朝、夜があけてから、何か海上に変ったことはなかったか」

「気がつきませんでしたね」

久七の訊問から得るところは何もなかった。

第九章 美津子の第一回目の訊問

この事件がいくらかでも軌道にのりだしたのは、美津子の訊問が行われてからだ。それは全ての人々が期待していたところであった。美津子の生命をとりとめることができたら。美津子の返事をきくことができたら、と。