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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

第十四章 伊東温泉療養所

重吉はニヤリと笑って、そして、ふりむいて、ブッと一発、おき残して立去った。

三村刑事は一名の助手をつれて、ただちに熱海へおもむいた。

三村刑事は翌日も戻らず、助手が刑事の報告書をたずさえて戻ってきた。

第十四章 伊東温泉療養所

三村刑事の報告書は深夜書きあげて、翌朝使者に託したものだ。それは、はじめてこの事件にひとつの糸口を与えたものであった。刑事の筆は躍っていた。

三村刑事の報告書は次の通りであった。

「尚調査すべき事項多々あり。一応現在まで判明せる事項のみ報告す。

熱海銀座の交叉点に重吉の証言の如く傷痍軍人の街頭募金せる者三名あり、倉田安彦の写真を示せるに、曾て彼らの同僚なりしこと直ちに判明せり。

彼らは国立伊東温泉療養所に入院中のものなり。よって直ちに、伊東市鎌田の療養所に急行す。同療養所は職員六十六名、入院患者は傷痍軍人四十七名、引揚者十三名、一般六名を収容しあり。倉田安彦に該当する患者の名簿に記載しあるは次の如し。

入院日  昭和二十一年八月三日

所属部隊 ビルマ戦線の捕虜。その他不明。

原籍   不明

姓名   捕虜収容所に於て、織田秀吉と名のり、本名を語らず。