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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

何かお心当りがあるのですか」

美津子は首を横にふった。

「お嬢さんは熱海にお友達でもいらっしゃいませんか」

「なぜですの」

「熱海へ遊びにいらっしゃることがなかったのですか」

「二三度でかけました。親戚があるのです」

「熱海のどのへんに」

「伊豆山です」

「熱海銀座の方は散歩にでかけられなかったのですか」

「行ったことがあります」

「そのとき、街頭募金の白衣の傷病兵を見かけませんでしたか」

「見たことがありました。募金箱へお金を入れてあげましたから」

「そうですか。それでは時期が違うようですね。いつごろですか」

「今年のお正月のことでした」

「それは残念です。今年の四月末、五月ごろでしたら、あなたは白衣の安彦さんをそこで見ることができたんですよ。安彦さんは毎日街頭募金にでゝいたのです」

美津子は警部を見つめたままである。ややあって、口をひらいた。

「それではニセモノでしたのね。身許がわかったのですか」

「残念ながら、わかりません。名なしの権兵衛なんです。生国も属した部隊も一切不明です。ただ便宜上、織田秀吉という珍名を名乗っていました」

「身許を知る方法はありませんの」

「全然ないのですよ。