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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「ギッチョに字を書かせてごらん。まア、たいがいは、右もスラスラ、左もスラスラさ。左は本来の名人。右は、それを練習しないと、学校の先生が怒るよ」

と、カラカラ笑った。

それから美津子の部屋で、アルバムから安彦の写真をさがしてもらって、我々はイトマを告げた。

自動車の中で筆蹟をしらべると、重吉をのぞいて左手の字というものは、みんな殆ど同じようなものだ。第一、男女の性別すらも殆ど見当がつかない。

大矢主任は、そのまま自動車を駅へ走らせた。例の運転手は、ちょうど駅前に駐車していた。

「どうだい。この中に、君の見たのと似た筆蹟があるかい」

ときくと、彼は一つ一つ見終って、

「似てるといえば、みんな似てますよ。私が見た紙キレには、これに似た字があったから、ハハア、左手で書いたな、と思ったのです。この紙です。これは字が半分ぐらい裏がえしになっていますが、私の見たのは、小田原の小が「※」に裏がえしになっていました。原の字の下の小も裏がえしになっていたようです。小峰の峰が裏がえしだったかな。とにかく、一目で、左手の字だな、と思いましたよ」

彼が指摘したのは定夫の書いたものだ。