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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

子供の寝床を中央にはさんで夫婦の寝床が敷かれており、蚊帳が吊られていた。三次郎の寝床には人のねた跡がなく、起久子は寝床で本を読んでいたらしい。枕元に伏せてある本は漱石の「道草」であった。蚊帳の外の天井に百ワットの電球がついていたが、内部にも三〇ワットのスタンドが枕元にひきこまれて、これも点燈されていた。起久子は蚊帳をでゝ、窓際で、ことぎれていたのである。

「窓の外から誰かゞ呼んだ。あるいは、合図をした。そこで、本をふせて、でゝきた。窓に顔を近づけて、外をのぞいた程の位置にいたのでしょうな。窓と蚊帳の間は一米もありませんが、蚊帳の方にものけぞらず、窓の方にも倒れず、沈むように崩れたワケでしょうか。窓の方に倒れて、窓が破れたりすると状況が複雑になるのですが、現場を乱さず、うまく倒れてくれたものです」

三村刑事は感服したように云った。まったく、沈んで崩れて、俯伏したという倒れ方だ。解剖の結果を待たなければ分らないが、一弾は左胸を、一弾は右胸を、一弾は腰部を射って、弾丸はいずれも体内にとまっているらしい。あまり、もがいた跡もなく、即死であった。

一応状況を調べ終ると、大矢捜査主任は広間に捜査本部をもうけて、先ずスミ子をよんだ。