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ふくいんさつじんじけん

復員殺人事件

坂口 安吾

「座談 第三巻第六号~第七号、第四巻第一号~第三号」1949(昭和24)年8月1日~9月1日、1950(昭和25)年1月1日~3月1日(未完)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 96,621 字 · 195 页

青空文庫

「お前は誰かの姿を見なかったかね」

「どう致しまして。たとえ誰が居たにしても、私はそれを見ないように努めたでございましょうよ」

「安彦君は、片足、片手だというじゃないか。そんな人が、人殺しに出かけられると思うかね」

「そこは義足というものがございます。安彦様にしてみれば、腹も立つだろうと思います。旦那様は昨日チラと一目見たきり、それ以後は、食事の折にも、安彦様を食堂へおよびにならず、モト、あの丹下左膳は手足が不自由だろうから、部屋へ食事を運んで食べさせてやれ。食堂へつれてくるな、という御命令でございます。お国のためにカタワになって、家へ帰れば親兄弟からむごい仕打をうけて、よくよく哀れな御方でございますよ。それで私が今夜も申上げました。御腹も立つでしょうが、ジッと我慢あそばせ、短気は損気と申しますよ、とね。こんなことになるぐらいなら、あの方のお部屋の外からカギをかけて、押しこめておいた方がよろしゅうございました」

「イヤ、御苦労さん。また、あとで訊くことがあるかも知れないが、部屋へさがって休息しなさい」

と、モトをさがらせた。大矢捜査主任は三村刑事に、

「ほかの人たちは、起して、待たせてあるだろうね。