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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
ほっとした人間もいることでしょうが、殿もそんなふうなことを仰しゃっていましたけれども、むろんそんな些細なことじゃないので、最も重大なのはですね、……失礼します」
泰三はよほど安心できないとみえ、すり寄って、城代家老の耳へ口を寄せて、やや暫くなにかこそこそ囁いていた。
これは機宜な方法だったかもしれない。そうでなかったかもしれないが、ともかく、このとき太鼓張りの障子の蔭、――というのは家老の席の三方を囲ってあるのだが、――その蔭に少年が一人、眠ったふりをしてこの会話を聞いていたからである。
「――うむ、ふむ、ふむ」
城代はこう頷いた。
「だいたいそういうわけなのです」泰三は密談を終ってちょっと笑った、「――殿としては立場もあり、あれだけ頭脳のよい方ですから、事を荒立てずにおさめたいと思われたわけでしょう、私としても宜しいというわけです、厄介払い、笑うなら笑えという気持です」
「――そう、うむ、まあそこは、あれだからともかくもまあ、……やるがいいだろう」
満信城代は深慮遠謀といったふうに、しかし温厚に微笑して、ではこれでと、引見の終ったことを手振りで示した。