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おもいちがいものがたり
思い違い物語
山本 周五郎
「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页
かれらとしては身の安泰を護るためだろうが、その謀議はしんけんな様相を呈してきた。自分たちがどちらかといえば不正な利得をしている関係から、ふだん内心ではそくばく気が咎めないとはいいえない。精神組織が多少とも正常であるなら、幾分かは良心の囁きも聞く筈である。が、一旦そこに摘発される危険が生じたばあい、その心理は猛然として自己主張に変貌する。
――かかる些細な事を取上げるとはなにごとであるか、世間にはもっと大々的な憎むべき悪事が多々あるではないか、にも拘らずわれら如き小事件を追求するとは卑劣である。かかる不正は断じて排斥しなければならない。
こういう理屈になるらしい。しかも底になにほどかの罪の意識があるだけ、かれらの反噬は警戒を要するのである。……ところで話の途中であるが、そのとき一人の新しい人物がはいって来た。まだ若い貧相な男で、右の高頬に長さ二寸ばかりの古い傷痕がある、そのためにうっかりした者が見るとどすのきいた顔にみえるが、そして彼自身も、
――詳しくは云えないがね、相手は五六人だったが、ちょいとした決闘をやってね、向うを斬ってはいけないと思ったもんだからね、なに話すほどのことじゃないのさ。