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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

これは一種の病気であって療法はごく簡単、すなわち彼に欲するだけの権力と富と名声を与えれば即座に治癒する。昨日まで赤くなって慷慨していた者が、けろりと治ってごく穏当な人間になる。疑わしい向きは試みにやってみることをおすすめするが……しかし権力や富や名声などというものは贈答品ではないから、おいそれと遣ったり取ったり出来るものではない。ことに正直廉潔などという銘柄は、決して流行しないものと古今東西を通じて厳と相場が定っているのである。

右ようの理合で、この藩にもそういう侍がいた。それほど過激ではなかったらしいが、藩史によると、その中心人物は野村吉太郎だと明記してある。野村は藩の重職格で、もと御納戸奉行九百二十石の身分であった。それが十年ほどまえに役目のことで譴責され、食禄半減、この物語の当時は無役であった。……この男を中心にして、主として若侍が二十人ばかり、例の「一連の醜団」に対して弾劾的な言動に出ていたが、典木兄弟の到着を機に、それが積極的行動にまで発展するもようになって来た。

ここに及んで、満信城代と山治右衛門とが動きだしたのであるが、どちらも荒療治はやりたくない。