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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

いきなりこう云った者があった。例の原っぱのところであったが、不平の独り言を云いながら歩いていたので、泰三は不意をくらって「やあ」と快活におじぎをして振返って、それからむっとした。……すぐうしろに三人の若侍がいた、まん中の一人は高頬に傷痕のある、あの本多孫九郎であった。

「いまへんなことを云ったのはおまえさんたちか」

泰三は三人を眺め、その眼をにやにや笑っている孫九郎の上にとめた。

「聞えたかね」孫九郎が答えた、「――聞えたとすると悪かったが、三人でね、いま貴公のことについて話していたんだよ、聞かせるつもりじゃなかったんだがね」

「ああそうかい、おれはまたおれをからかったのかと思ったよ」泰三はしげしげと相手の顔を眺め、ぺっと脇へ唾をして、「――人相の悪いやつらだ、ろくなしゃっ面あしていやあしねえ、どうせ末は馬子か駕舁きだろう」

「おい待て、聞き捨てならんぞ」

孫九郎がどすのきいた顔で、凄んだ声をあげてどなった。歩きだした泰三は立停って、けろっとした顔で振返った。

「なんだい、なにか用かい」

「いまなんと云った、いまの言葉をもういちど云ってみろ」

「聞えたかい、そいつは悪かったな」