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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

泰三はにこっと笑った、「――聞かせるつもりじゃなかったんだよ、感想を独り言で云っただけなんだ、そうかい、聞えたかい」

「人を嘲弄するな、あんな高声の独り言があるか、聞えるのを承知のうえの暴言ではないか」

「するとお互いさまだな、おまえたちの暴言もおれに聞えた、つまり聞かせるつもりの悪口がお互いに聞えたわけで、双方目的を達して満足というわけだ、そうじゃないか」

「黙れ、悪口にも程度がある」孫九郎は本気に怒ったらしい、「――われわれの人相をうんぬんし、あまつさえ末は馬子か駕舁きとは武士として聞き捨てならん言葉だぞ」

「おれのほうもそうなんだ、おれも使い走りなどと云われたのは初めてでね、おまえたちの十倍くらい聞き捨てがならないんだよ」

「それならなぜ初めにそれを云わんか」

「云えないんだ、云えば喧嘩だからね、おれは殿さまに喧嘩を売ってはいかんと禁止されているんだ、売ってはいかん、だからこっちから仕掛けるようなことは出来ないんだ」

「すると喧嘩を買って出るというのか」

「ばかなやつらだ」泰三は唇をへし曲げてこう呟いた、「――喧嘩をするのにいちいち念を押してやあがる、これだから田舎者はいやだってんだ、ちぇッ、そこに原っぱがあるじゃねえか、見えねえのかな」