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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

これに比べるとあの晩、本多孫九郎たちと仲直りをしたときは豪華版であった。尤も仲裁にはいったのが井上角兵衛といって、作事奉行所の支配だったからだろう。和泉橋の脇にある観水楼とかいう二階造りの料亭で、芸妓も十人ばかり来て、じゃんじゃか騒いだ。

「むさくるしい処で失礼ですが、まずこれへお坐り下さい」

大仲久馬がいそいで彼を上座へ据えた。やっぱり自分たちもむさくるしいことは知っているらしい。みんなが席に着くと、野村吉太郎が改まった姿勢で自分と四人を紹介した。それによると大仲久馬はなんと、彼の上役大仲甚太夫の二男であった。そこで泰三はすぐさま、「あの人が喉で妙な音をさせるのはなんですか、痰が絡んでるようでもないし咳をするんでもないようだし、あれはなんですか」

久馬は急に顔を赤らめ、かなりいきごんだ調子で、自分はそんなことは知らない、これまでついぞ聞いたことも見たこともないと答え、しかもそれを断言した。……これはあとでわかったことなのだが、甚太夫の「うるるん」は人まねであった。勘定奉行の新郷治兵衛がそれをやる、そしてそれをやるときには或る程度まで威厳が出るので、甚太夫はそれを――まねていると云って悪ければ――それにあやかっているらしく、またそのことはかなり広範囲に知られているため、久馬が赤面し且つ否定の断言をしたらしい