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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

「そのときはどうぞわたくしたちを招かないで下さいましね」

「こっちで御免を蒙ります、わたくしたち二人っきりよ、二人っきりで誰に遠慮も気兼ねもなくやるわよ、どうぞ御心配なく」

「あら妙ですこと」姉はそのときは皮肉に切って返した、「二人っきりって、それでは、花婿さまはどうなさるの、あの方と津留さんとお婿さまぬきでお式をなさるの」

「わたくしは良人は一人しか持ちません、わたくしとお盃をする方がわたくしの良人ですわ」

「まあ津留さん」母が仰天して云った、「――なんですそんな乱暴な、ほかの事とは違いますよ、女にとって一生の大事を、そんな冗談ごとにするひとがありますか」

「わたくし冗談になんか申しません、本当にそうだからそうだと申すんですわ」

「なんですって、まあ、なんですって」

「わたくし泰三さまの妻になります」

彼女はこんどは決然と第二の宣言をした。

「泰三さまの苦しい悲しいお気持を知っているのはわたくしだけです、父さまも、母さまも、ほかの誰も理解しようとはなさらない、あの方をわかってあげ、あの方の味方になってあげられるのはわたくし一人です、あの方の妻になってあげられるのもわたくしだけですわ、ええ、わたくしはっきり申します、津留は泰三さまと結婚いたします」