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おもいちがいものがたり

思い違い物語

山本 周五郎

「労働文化」労働文化社、1950(昭和25)年9月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,840 字 · 88 页

青空文庫

どうしても動きそうもないし、女中たちも彼には親密な感情をもっていたので、云われるとおりに茶漬の支度をした。

この騒ぎに気がついたのは津留であった。彼女はいつも早起きで、家族のなかではいちばん先に起きる。そして風呂舎で冷水摩擦をするのが、もう四五年まえからの日課であった。彼女の説によると、それが健康と美を保つ唯一の秘法だそうで、ひと頃は姉や母親なども強制的にやらされたが、冬季の寒さなどは辛抱するとして、手順が面倒くさいのと、相当以上に羞恥的であるために、両者とも断乎として拒絶した。それというのが、津留のやりかたは一般に行われている方法のほかに両手首と両足首、そして身躰前面の微妙な部分に対する灌水と、骨盤部周辺の入念なる摩擦という技法が加わるのである。それにはかなり大胆な放恣な姿勢をとらなければならないし、或る姿勢などは、……ここでは描写することを避けるが、母親が驚きと羞恥のために眼をつむって全身を赤くして、

――やめてやめてやめて、いやいやいや。

と叫びだしたくらいであった。

もちろんこれは物語とは関係のないことで、つまりその朝も彼女は「健康と美のため」