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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

鷹を追う

と、いう声だった。

かりそめにも母と名のあるものを、光秀たりとも、そんな具には用いていない。人質に送ったのは、実は叔母であったのだ。以て、光秀はみずから慰めようとしたかもしれぬが、やはり慰めきれないものが、心にわだかまっていたにちがいない。

彼は、荒木村重のように、荒削りな神経の持ち主ではない。いや人いちばい繊細でもあり、また正邪を知り善悪の批判にあきらかな知能である。

それだけに、あとの苦味はいつまでも消えまい。

亀山領内の民治には、明主ぞ仁君ぞと仰がれていながら、その政治的手腕にも似あわず、軍事にかけては、焦心り気味がみえ、不手際が目立った。殊にそれを、三木城その他の攻略を遂げた秀吉の行き方と較べるにおいて、一だんまずいと思わせるものがあった。

鷹を追う

信長も、多忙であった。

わけてここ両三年の生活は。

彼のいるところ、政務の中枢となり、彼の赴くところ、軍の本営となる。

そのあいだに、好きな角力を見たり、山陽、山陰その他の戦場から戻って、折々、伺候する部将をねぎらっては、大いに酒宴も張り、例の、

「――人生五十年、ゆめまぼろしの如くなり。死のうは一定」