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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

06 第六分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 200,320 字 · 398 页

青空文庫

その遊びにも天下の事を成す気宇をあらわしていた。

だが、この正月の愛智川行は、至って簡素だった。そして放鷹もあまりせず、ほんの野駈程度にすまし、携帯の茶の湯道具を取り出させて野立てで一服のんだりしてすぐ帰りを命じた。

ところが、この日、信州木曾の一族の苗木久兵衛という者が、供も連れずただ一名で、ここへ信長を訪ねて来ている。信長は、久兵衛の手から書簡を受け取り、一読すると、

「義昌、他お身内の意嚮、たしかに信長承知はいたしたが、然るべき人質など、安土へ送り来ぬうちは、否とも応とも、即答いたし難い」

と、答えて、後のことは、家臣の菅屋九右衛門とよく談合したがよいと云い残して去った。

きょうの鷹狩は、ここで木曾の使者と落ち合うことが主要な目的であったかもしれない。彼の帰途を追って、やがて菅屋九右衛門が追いついて来ると、すぐ鞍側へさし招き何事か小声に聞き取った上、

「そうか。ウウム、そうか」

と、満足そうに幾たびもうなずいていた。

その時の帰り途である。鷹狩の列は安土の町へ入って来た。――と、信長は駒を停めて、木立の中の異国風な建物を振り仰いだ。

そこの窓から提琴の音がながれて来る。