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しんしょたいこうき

新書太閤記

吉川 英治

05 第五分冊

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 197,228 字 · 394 页

青空文庫

「起きておるか」

「いえ、この両三日はまた」

「臥せったままか」

「はい」

「どこじゃ、病間は」

「彼方の離室が、静かでもあり、お好みのようなので」

「では、あちらへ参ろう。穿物はないか」

秀吉が庭へ下りかけた時、半兵衛に附きそっている小侍の一名が駈けて来て、

「ただ今、衣服をあらためて、主人がお目通りにうかがいますゆえ、しばらく、客院で御休息のほどを」

と、いうと、秀吉は、ばかなといわぬばかりに、

「起してはいかん。起してはいかん」

独り叱りながら、園内の一庵へ、大股に歩いて行った。

秀吉が来たと聞くと、半兵衛はすぐ病床をたたませていた。

召使に室の清掃を命じ、自分はその間に衣服を着かえた。そして木履を穿いて降り立つと、籬の菊の根を縫って来る小流に身を屈めて、口を漱ぎ手を浄めなどしていた。

「なぜ、そんな軽はずみをする。病人のくせに」

後ろへ来て、軽く肩を打った人を振向いて、

「おう、いつの間に」

と、半兵衛は、地へひざまずかぬばかりに、身を低め、

「まず……まず……あれへ」

と、清掃されている室内へ、主君秀吉を迎え上げた。

粗朴な壁に、禅家の墨蹟が懸っているほか、何もない床をうしろに、秀吉は、至極気楽にあぐらを組んだ。