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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

」

「飛んでもない、お孝さんこそ可い姉さん。ああでなくては不可ません。私は何も、曲んだり拗ねたりして、こう云うのではないんです。お爺さん、色でも恋でもない人に、立てる操は操でないのよ。……一人に買われる玩弄品です。大人の手に遊ばれる姉さま人形も同じ事。」

ふと言絶え、嘆息して、

「ここで栄螺を放した方は、上の壇に栄螺が乗って、下に横にして供えられた左褄の人形を、私とは御存じないの。」

と、半ば乱れた独言、聞かせぬつもりの声が曇る。

「何も浮世でござりますよ。」

と分らぬながら身につまされて、爺さんはがっくりと蹲んで俯向き、もう一度目を引擦って、

「何の真似は出来ませいでも、せめて芸ごとで、勤まるようになれば可いと存じますよ。貴女なぞは何が何でも、そこが強味でいらっしゃいます。憂さも辛さも、糸に掛けて唄っておしまいなさりまし。芸ごとも貴女ぐらいにおなりなさると、人の楽みより御自分のお気晴しになりまする。……中にも笛は御名誉で、お十二三の頃でございましたろうか、お二階でなさいますのが、私ども一町隣、横町裏道寂となって、高い山から谷底に響くようでござりましたよ。