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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
……が、客来る、と無造作に身を起して、カタリと大床に靴を据えた。その音さえ、谺するまで、高い天井、大空に科学の神あって彼を守護するごとくであるのに、かてて加えた学友が、五人の数、彼を取巻いて、あたかも迷宮の奇き灰色の柱のごとく、すくすくと居合わせたのが、希有な侵入者を見ると、一斉に伝吾に瞳を向けた。知らずや、その中に一人外科の俊才で、渾名を梟と云う……顔が似たのではない。いかもの食の大腕白、かねて御殿山の梟を生捕って、雑巾に包んで、暖炉にくべて丸蒸を試みてから名が響く、猫を刻んでおしゃます鍋、モルモットの附焼、いささか苦いのは、試験用の蛙の油揚だと云う、古今の豪傑、千場彦七君が真黒な服を着けて、高い鼻に、度の強いぎらぎらと輝く眼で、ござんなれ、好下品、羆の皮をじろりと視て、頭から塩を附けたそうにニヤリと笑った。――この威にや恐れけん。
伝吾は扉の敷居口に、へたへたと腰を抜くと、羆の筒袖の前脚めいたやつを、もさりと支いて、土下座して、
「途惑をいたしまして。」
とばかり、口も利き得ず、すごすごと逡巡して帰ったのである。
仔細は云うまでもない。……大概様子でも知れよう。