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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
それを怨んで、未練も有って、穴から出たり入ったり、ここいらつけ廻しているに違いない。何の男のようでもない。のッそりの蝦夷なんか、私は何とも思わない。悪く形でも顕して見たが可い。象牙の撥があるものを、払き殺しても事は済む。――国手の身のまわりをつけ廻されるんだと、ね、千世ちゃんや、姉さんは本当に案じられる。
角の紀田屋まで送って行って、車をそう云って帰して来たがね、獣は駆けるのが疾いやね、車にも乗れば乗るだろう。――泊めたかったが、お肯きでなし、……」
とお孝は独言のように云って、
「途中で、またそうでもない、新聞にお名前の出るような事なんぞ無ければ可いが、」
と気を揉む頬の後毛は、寝みだれてなお美しい、柳の糸より優しいのである。
「姉さん。」
お千世が顔を覗いて、
「縁起棚へお燈明をあげて、そしてお祈をしましょうよ。私も拝みますわ。」
「嬉しい娘だね。」
と頬摺したが、襟を合せて凜として、
「お待ち、私、考えた。……お稲荷様へお百度を上げよう。」
とて見返る祠は、瓦斯燈の靄を曳いて、空地に蓮の花の紅いがごとく、池があるかと浮いて見える。
「数取りにはね。」
と云うより早く、ぴりぴりと比羅紙を引剥がす……