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にほんばし

日本橋

泉 鏡花

「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页

青空文庫

「夜が更ける……おい、そして、そして小児は。」

「国手、臓腑から餌を吐くまで何事も打まけたで、小児を棄てた処を言うですれど、これだけは内分に願いたいでね、極ねえ。……巡査にでも知れるとならんですだ。」

「余り、巡査に遠慮する風でもあるまいじゃないか。」

「そうでねえです。河岸の腸拾いや、立ん坊は大事無いですれど、棄子が分ると引っぱられるでね、獄へ入れられる。それも可えですが、ただ、そうなると、縁の下からも、お孝の声が聞かれんですだよ。」

葛木は思わず吐息した。

「無論言いはせん。」

「なら話すだがね、小児を棄てたのは、清葉の門だで。」

「何、清葉の。じゃ、あの滝の家で拾って、可愛がってると云う小児は、お前のかい。」

「小児は幸福ですだ。」

「むむ、幸福だ。」

と引入れられて、気を取られた調子が高く、

「清葉が、頬摺りしたり、額を吸ったり、……抱いて寝るそうだ。お前、女房は美しかったか、綺麗な児だって。ああ、幸福な児だ。可羨しいほど幸福だ。」

摺って出るように水を覗く、と風が冷かに面を打つ。欄干に確と両手を掛けた、が、熟と黙って、やがて静に立直った時、酔覚の顔は蒼白い。