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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
振袖
六十七
」
と目を手巾で押えて帰った。……
襦袢はわざと、膚馴れたけれど、同一その段鹿子を、別に一組、縞物だったが対に揃えて、それは小女が定紋の藤の葉の風呂敷で届けて来た。
箱屋が来て、薄べりに、紅裏香う、衣紋を揃えて、長襦袢で立った、お千世のうしろへ、と構えた時が、摺半鐘で。
「木の臭がしますぜ、近い。」
と云うと、箱三の喜平はひょいと一飛。阿婆も続いて駆出した。
お千世の斬られた時、衣物はそこにそのままである。
振袖
六十七
「違った、お千世だい。」
と、やっぱりニタニタと笑いながら、目を据えて階子段を見上げた時。……ああ、一足遅い。
お千世の祖父の甚平が台所口から草鞋穿の土足である。――これが玄関口から入ったら、あるいはこうはなかったろう。――爺さんは、当夜植木店のお薬師様の縁日に出た序に、孫が好きだ、と草餅の風呂敷包を首に背負って、病中ながらかねて抱主のお孝が好いた、雛芥子の早咲、念入に土鉢ながら育てたのを丁寧に両手に抱いて、来て、途中頭の上の火事に慌てながら、驚破や見舞、と駆込んで、台所口へ廻ったのが、赤熊と一足違い。
泥鉢は一堪りもなく踏潰された。あたかも甚平の魂のごとくに挫けて、真紅の雛芥子は処女の血のごとく、めらめらと颯と散る。