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にほんばし
日本橋
泉 鏡花
「日本橋」千章館、1914(大正3)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 88,697 字 · 177 页
「評判な人ね、あやかりたいよ。」
で、粋な音〆と聞えた美声。
露地の細路……駒下駄で……
と得意の一節寂寞とする。――酔えば蒼くなる雪の面に、月がさすように電燈の影が沈むや。
「肖然。」
と、知った同士が囁き合って、威した客の方が悚然とする。……
露地の細路、……駒下駄で……
「お孝、それだけは堪忍しな。」
つむじ曲りが、娑婆気な、わざと好事な吾妻下駄、霜に寒月の冴ゆる夜の更けて帰る千鳥足には、殊更に音を立てて、カラカラと板を踏む。
顔の見える時はまだしもである。
朽ちた露地板は気前を見せて、お孝が懐中で敷直しても、飯盛さえ陣屋ぐらいは傾けると云うのに、芸者だものを、と口惜がっても、狭い露地は広くならぬ。
車は通らず、雨傘も威勢よくポンと轆轤を開いたのでは、羽目へ当って幅ったいので、湯の帰りにも半開、春雨捌きの玉川翳。
美人のこの姿は、浅草海苔と、洗髪と、お侠と、婀娜と、(飛んだり刎ねたり。)もちょっと交って、江戸の名物の一つであるが、この露地ばかり蛇目傘の下の柳腰は、と行逢うものは身の毛を悚立てて、鶯の声の媚いて濡れたのさえ、昼間も時鳥の啼く音を怪む。