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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

すると僕は一と晩ここに睡っていたわけです。ゆうべの十一時少し前までのことは覚えているんだから」

「ホウ、十一時といえば、ちょうどあの事件の頃ですね」

三島刑事は思わず呟いた。

「えっ、あの事件って? じゃ、やっぱり何か事件があったんですね。それを聞かせてください。誰がやられたのです」

「ともかくもあちらの部屋へ行こう、そして、ゆっくり話そう。お前歩けるかい」

伊志田氏がやさしく訊ねると、一郎はやっとの思いでフラフラと立ち上がった。

「なんだか眼まいがするけれど、なあに大丈夫です」

伊志田氏と三島刑事が両方から腕を支えて、応接間までたどりつき、一郎をそこの長椅子に掛けさせた。伊志田氏の指図で、女中が葡萄酒と水とを運んできた。

先ず伊志田氏から、ゆうべの出来事をかいつまんで話して聞かせると、一郎は驚きの眼をみはって聞いていたが、やがて、葡萄酒に唇を湿しながら、彼の記憶を語り出した。

「僕はゆうべ十一時少し前、僕の寝室の前を誰か通り過ぎる足音を聞いたのです。みんなもう寝たはずだし、手洗所へ行くのには、僕の部屋の前を通らなくてもいいんだし、変だなと思ったのです。足音の消えていった方角には、空き部屋か、そうでなければ塔の入口しかないのですからね。