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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

「友だちの家がこの辺にあるんじゃないでしょうか。それとも宿屋かな」

若い刑事が小首をひねりながら答えた。

「この辺に宿屋はないよ。友だちの家というのも、なんとなく腑に落ちない。僕はもっと別のことを考えているんだよ。あの娘は何よりも先ず行方をくらまそうとしたに違いないね。それにはどんな素人でも、第一に気づくことがある。

ああ、ここだ。僕はさっきからこの店を探していたんだよ。あの娘はここへはいったに違いない」

三島刑事が立ち止まったのは、一軒の古着屋の前であった。さすがに老練な刑事は逃亡者の心理を解していた。逃亡者は何よりも彼自身の服装が気になるのだ。服装さえ変えてしまったら、人眼をくらますことができると考えるのだ。

刑事はツカツカとその店にはいって、そこに坐っている主人らしい老人に、肩書のある名刺を出した。

「少し訊ねたいことがあるんですが、あなたのところはゆうべ十二時ごろ、まだ店をあけていましたか」

「へえ、その頃まであけていたように思いますが……」

老主人は商売がら警察の取調べには慣れているので、さして物おじするふうもなく答えた。

「たぶん十一時半から十二時までのあいだだと思うが、若い女の客はなかったでしょうか。