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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

洋装をした二十歳ぐらいのお嬢さん風の娘なんだが」

「ああ、あれですか。お見えになりました。わたくしも、なんだか変だと思いましたが、お客様ですから、お断わりするわけにもいきませんので……」

「その娘は何を買ったのです」

「銘仙の袷と帯と、それに襦袢から足袋まで一と揃い売りました」

「ここで着更えをしたのではありませんか」

「いいえ、包みにしてお持ちになりました。仮装会があるんだとかおっしゃいましてね。けさになって、上総屋というこの並びの履物屋さんに聞いたのですが、その娘さんは、手前の店を出てから、その上総屋さんで、草履を一足買って行ったらしゅうございますよ。

わたくしも、あとになって、なんだか変だと思っていたところでございます」

三島刑事の想像は見事に的中した。やっぱり逃亡者は先ず変装のことを考えたのだ。おそらく着物と草履を買い求めた直後、どこかで、公園の闇の中とか、もしくはソバ屋の二階というような場所で、着更えをしたのであろう。

刑事たちは、古着屋の売ったという着物と帯の柄を手帳に控えて一応自動車に戻ったが、それから先の足取りを確かめるのが、また一と仕事であった。