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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

明智がそんなことを心に呟いて、また煙草の煙を深く吸い込んだ時であった。突然、卓上電話がけたたましく鳴り響いた。

彼はその音を聞くや否や、「ああ、やっぱりそうだったか」というような感じがした。彼にも似げなくギョッとしたのだ。

急いで受話器を耳に当てると、先方は予感の通り伊志田一郎であった。

「先生ですか。いま父も母も皆不在なのです。僕は父の書斎に一人ぼっちで留守番しているのです。先生、聞こえますか。もっと声を低くします。あいつに聞こえるといけないからです」

「えっ、あいつって、誰かそこにいるんですか」

明智が聞き返しても、先方は構わず話しつづける。例によって物に憑かれた調子だ。

「廊下にかすかな足音がしたのです。女中などとは違います。まだ見たこともないあいつの足音です。確かにあいつです。先生っ、早くきてください。僕を助けてください。僕はもうからだがしびれたようになって、身動きができないのです。卓上電話の受話器をはずすのがやっとでした。

ああ、あいつの息の音が聞こえます。ドアの鍵穴から覗いているのです。先生、もっと声を低くしますよ」

そして、先生の声はほんとうの囁きに変った。