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あんこくせい

暗黒星

江戸川 乱歩

「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页

青空文庫

それが、背中を丸くして、サッと走って行くうしろ姿に、なんともいえぬ醜怪な、兇悪なものが感じられた。黒いインバネスの両袖は翅のようにひるがえって、ちょうどコウモリそっくりの、いやらしい姿であった。

その大コウモリの翅の中に、血に濡れた短刀が隠されていることはわかっていたが、明智探偵は少しも躊躇しなかった。ただちにあとを追って走り出した。

ガランとした薄暗い廊下、怪物は表階段を降りないで、奥の方へ走って行く。猫のように足音を立てない走り方だ。まるで、コウモリが宙を羽搏いているような感じだ。

出発の時に、追うものと追われるもののあいだに、五、六間のひらきがあった。それが、怪物が廊下の突き当たりの狭い裏階段を駈け降りるころには、二、三間に縮められていた。

大コウモリは、裏階段を一とすべりに駈け降りて、階下の廊下をさらに奥へ奥へと走った。

少し行くと、廊下が鉤の手になっていた。怪物はその角を曲がりながら、背を丸めて、ヒョイとこちらを振り返った。黒布の二つの切れ目が、薄闇の中にキラリと光った。その眼が、気のせいか、意味ありげに薄笑っているように見えた。

「待てっ!」