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あんこくせい
暗黒星
江戸川 乱歩
「講談倶楽部」1939(昭和14)年1月号~12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 94,000 字 · 188 页
明智探偵がはじめて声をかけた。相手を射すくめるような、烈しい気合いのこもった一と声であった。
だが、怪物はひるまなかった。妙な恰好でお辞儀でもするような仕草をしたかと思うと、そのまま曲がり角の向こうに姿を消してしまった。
いうまでもなく、明智はただちにあとを追って、同じ角を曲がった。見ると、鉤の手廊下はそこが行き止まりになっていた。だが、曲者は? わずか数秒おくれたばかりなのに、もうそこには人の影さえなかったではないか。
廊下の左側に窓があって、そのそとは庭園の木立であった。明智は窓に駈け寄った。ガラス戸は閉まっていた。それを引きあけて、もう暮れきった庭園を見渡したが、怪物の姿はどこにもなかった。
蒸発してしまったのだ。幽霊のように消え失せてしまったのだ。
さすがの明智も、ややうろたえて、キョロキョロとあたりを見まわした。窓のほかには、どこにも逃げ道はないのだ。しかし、廊下の右側にただ一つドアがある。誰かの部屋らしい。探偵はいきなり把手をひねって、そのドアをひらいた。
覗き込むと、薄暗い部屋はシーンと静まり返っている。狭い控えの間があって、その奥に広い部屋があるらしい。